Mag-log in第36話 堂々と手を繋ぐ。大胆不敵こそ嫁を射止める道だ
美月は眉を上げた。「それ、こっちのセリフじゃない?」
蓮は彼女を見つめた。「ちょっと買い物にな。」
美月は微笑んだ。「奇遇ね、私もなの。それじゃあ、それぞれ別々に……」
彼にプレゼントを贈るつもりだった。彼と一緒にいたのでは、なんだか気まずい。
蓮はその言葉を聞いても返事をせず、じっと彼女を観察していた。
そして突然、一言を放った。「ここに来たのって、もしかして俺の誕生日プレゼントを買うためじゃねえか?」
「……」美月は言葉に詰まった。
蓮は彼女が黙り込んだのを見て、自分の推測が当たったことを悟った。
<第276話 誰が払えないっていうのよそれを聞いて、雅は上機嫌になった。自分が褒められるより、ずっと嬉しかった。「そうでしょう! 本当に綺麗よね! やっぱりうちの嫁が一番だわ!」美月は思わず言葉を失った。「……」――他人が褒めてくれるのはともかく、身内まで一緒になって褒めちぎるとは。そのとき、店長も知らせを受け、慌てて駆けつけてきた。二人の前まで来ると、店長は満面の笑みで挨拶した。「雅さま、いらっしゃいませ! 本当にお久しぶりでございます! こちらが若奥様でいらっしゃいますね! なんてお美しいのでしょう!」そして、またしても美月を褒めちぎった。雅はすっかり気をよくし、口元が緩みっぱなしだった。ちょうどその頃、志織と茜も店に入ってきた。本当は今すぐ帰りたいところだったが、雨子と約束している。すっぽかすわけにはいかない。店長が雅にあれほどへつらっているのを目にし、志織はますます不愉快になった。店員は二人の来店に気づくと、当然のように接客に出てきた。しかし、目の前の光景を見れば見るほど、志織の不満は募るばかりだった。――なぜ雅のところには店長自らが出迎えるのに、自分たちはただの店員なのか。雅は志織たちを完全に無視して、店長を伴い、美月と一緒に施術室へ向かった。志織は、二人が二階へ上がっていくのを、ただ見送るしかなかった。
第275話 まるで本当の母娘のように雅も同じ気持ちだった。――まさか、こんなところであの二人に出くわすとは。まったく、運が悪いにもほどがある。雅は美月のほうに顔を寄せ、声を潜めて囁いた。「美月ちゃん、あの二人のことなんて気にしなくていいからね。もし何か言ってきたら、遠慮せずに言い返しなさい」――あんな奴らのために引き返すなんて、あり得ない。美月は絶句した。「……」二人は、そのまま志織たちの前を通り過ぎようとした。雅と美月を見た瞬間、志織はカッとなった。でも、人目があるから、ここで暴れるわけにはいかない。せいぜい、嫌味の一つを言ってやるくらいだ。「あら、これは雅さんじゃないの。どうしたの? お嫁さんを連れてエステに来たの? 偶然だね!」雅は志織を相手にするのも面倒だった。「あんたには関係ないでしょ! そこをどいて。邪魔よ」そう言い放つと、志織が反応する間もなく、雅は彼女を押しのけて進んだ。不意を突かれた志織は、よろめいた。幸い、隣にいた茜がすかさず母親を支えた。二人は当然、雅の乱暴な振る舞いに腹を立てた。しかし、当の雅はすでに店の中へ入ってしまっていた。志織は、顔が真っ赤になるほど怒っていた。――くそっ、よりにもよってこんなとこ
第274話 最悪の鉢合わせ茜はしばらく黙り込んだ。彼女にとって、あまりにも予想外の話だった。娘が何も答えないので、志織は思わず眉をひそめた。「どうしたの? 瑛士じゃダメなの? あれだけ条件のいい相手なのに。じゃあ、誰が好きなのよ?」茜の心は複雑だった。「でも、瑛士は優香と婚約を解消したばかりじゃない? 今すぐ近づくのはよくないと思う。それに、この話、瑛士は知ってるの? 私、優香と同じ目に遭いたくない」今や優香は、帝都の令嬢たちの社交界で完全に評判を落としていた。悪評どころか、誰もが眉をひそめるほどだった。名門・白井家の令嬢が、二人の男のせいでここまで惨めな目に遭ったのだ。周囲は彼女を笑いものにしながらも、自分たちも気をつけなければと身を引き締めていた。誰も、次の優香にはなりたくなかった。しかし、志織は娘の懸念など気にも留めなかった。「婚約を解消したんだから、もう関係ないでしょ? 別れてからどれだけ経ったかなんて、問題じゃないわ。まずは二人で接点を持てばいいのよ。うまくいけばそれでよし、だめならそのとき考えればいいじゃない」志織はわずかに眉を上げ、娘を挑発するように言った。「まさか、瑛士を振り向かせる自信もないの? 私の娘なら、そんなに頼りないはずないでしょ」茜は言葉に詰まった。「……」とはいえ、母の挑発はなかなか効いた。茜の表情が、少しずつ和らいでいった。――うちは桐生家には及ばない。
第273話 志織の目論見美月は彼を呼び止めた。「待って。十時から会議があるの。あなたも出てちょうだい」大沢はうなずいた。「分かりました。私から皆に伝えておきます」そう言って、彼はオフィスを出ていった。美月はもともと、グッズ事業は後回しにするつもりだった。でも、どうやら少し出遅れてしまったようだ。彼女はパソコンを開き、仕事に取りかかった。十時になると、美月は時間どおりに会議室へ入った。他の社員たちはすでに揃っていた。美月は上座に歩いていき、腰を下ろした。余計な前置きはせず、さっそく本題に入った。「剛、まずはクローズドβテストのデータを報告してちょうだい」名前を呼ばれた剛は、すでに準備万端だった。用意していたプレゼン資料を開き、報告を始めた。会議は三十分ほどで終了した。解散する際、美月は広告宣伝部の主任を呼び止めた。「佐野さん、明日の退勤時間までに宣伝案、直せる?」佐野は慌ててうなずいた。「できます!」「じゃあ、仕事に戻ってちょうだい」美月はそう言って、彼を下がらせた。彼女自身もオフィスへ戻った。十一時になると、美月は荷物をまとめ、少し早めに会社を出た。何しろ、
第272話 グッズ化権を買いたいという人が現れた「ちょっと待って。バッグを置いてくるわ」美月はまだバッグを手に提げていた。「それなら、私が書類を持って行きます」「じゃあ、お願い」美月は自分のオフィスへ向かった。彼女が席に着いたばかりのところへ、大沢が書類を持って入ってきた。「社長、こちら、すべてご署名いただきたい書類です」美月は大沢にかなり大きな権限を任せていた。特別な事情がない限り、普段の業務は大沢の署名だけで済む。美月は書類に目を通してからペンを手に取り、一枚ずつ署名していった。書類は三通だけだった。署名を終えると、彼女は大沢に返した。「そういえば、報告があるって言ってたわよね? 何のこと?」美月は少し離れたところにあるソファを指し、座って話すよう促した。大沢はソファまで歩いていき、腰を下ろした。「社長、うちのスマホゲームをグッズ化したいという人から連絡がありました」美月は少し意外そうな顔をした。「つまり、うちのゲームの商品化権を買いたい人がいるってこと?」大沢はうなずいた。「はい! クローズドβテストの盛況ぶりを見れば、このゲームに大きな市場性があるのは明らかです。商才と資金力のある人なら、当然このチャンスを見逃しません」美月は少し考えてから尋ねた。
第271話 おばあさまと散歩「美月ちゃん、まずは朝ごはんね。ダイニングへ行きましょう。今朝はいつもより品数を増やしていろいろ用意させたから、たくさん食べてちょうだい。やっぱり少し痩せすぎよ」美月は思わず言葉を失った。「……」――自分、そんなに痩せてる?いや、そんなはずない。つくべきところにはちゃんとついてるし。こんなに優しい姑がいるなら、結婚した甲斐もあるってもんだ。三人はダイニングへ向かった。「おじいさまとお父さんは? お呼びして、一緒に食べませんか?」雅はすぐに答えた。「おじいさまは朝早く散歩に出かけて、もう朝ごはんを済ませたの。お父さんは今日出張で、六時に出発したから。今朝は私たち三人だけよ」美月はそれを聞くと、それ以上は何も言わなかった。神崎家の朝食は品数が多く、栄養バランスもよかった。「美月ちゃん、遠慮せずにいっぱい食べてね。どれも体にいいものばかりよ」「はい!」美月はうなずいた。「お母さん、自分で取りますから」三人で朝食を終えても、美月はすぐには出かけなかった。会社までは車で三、四十分ほどだ。八時過ぎに出れば、十分間に合うはずだ。「おばあさま、少し一緒にお散歩しませんか?」清子はぱっと顔をほころばせた。「ええ、行きましょう!」